Abstract
コミックの読者に作品への興味をもってもらうため,Web 上にコミックのシーンを広告 として表示することが行われているが,現状では読書進度にかかわらずどのユーザにも同 じ広告が提示されている.こうした状況では一様に効果があるとはいえず,続きを読み進め るための個々のモチベーションを引き出せる最適なシーンを提示する必要がある.
例えば,作品の読書経験の有無や,提示するシーンが読者にとって既読であるか未読であ るかといった読書状態を考慮する必要があるが,これまでの研究では読書状態を考慮した うえでどのようなシーンを提示することが最適かという研究はほとんどなされてこなかっ た.そこで本研究では,読書状態を考慮した場合どのようなシーンが読者の続きを読み進め るモチベーションを増進することができるか明らかにすることを目標とする.
まず,同じページを見た場合でも,読書状態が異なることで読者の続きを読み進めるモチ ベーションに影響を与えるのかどうかを調べる必要があると考えた.そこで,コミックを途 中まで読み進めた読者に対し,推薦シーンを既読および未読部分からそれぞれ提示するこ とにより,作品に対する読書意欲にどのような影響を与えるのかについて実験を行った.こ の読書影響実験においては,著者の用意した 16 作品のコミックからユーザベースで推薦ペ ージを収集し,途中まで読み進めている読者および作品を読んだことがない読者に対して ページを提示したときの続巻を読み進めるモチベーションについて評価を行った.
結果として以下のことが明らかになった.
l コミックを途中まで読み進めた読者にまだ読んでいないシーンを提示すると,既に読
んだシーンを提示した場合と比較して有意に続きへのモチベーションが増進される
l コミックを途中まで読み進めた読者は,コミックを読んでいない読者と比較して自分
が読んだ作品のページを見たとき有意にモチベーションが増進される つまり,コミックの読書を途中まで行ったユーザに対し,未読シーンを提示することで続 きを読み進めるモチベーションを増進できることが分かったため,こういった読者の状態
に応じて提示すべきページを切り替えて表示していくことは効果的であると考えられる. また,読者が続きの巻を読み進めるモチベーションを高められるページのデータセット を構築し,その内容についての分析を行った.ここでは 4 作品のコミックを対象とし,以下
の 2 種類のページのデータセット構築をユーザベースで行った.
l 前の巻まで読んだ読者のモチベーション増進に効果的なページ(前巻)
l 作品を読んだ経験のない読者のモチベーション増進に効果的なページ(未読)
このデータセットの分析を行ったところ,データセット(前巻)および(未読)では推薦 されるページが概ね一致する結果となったが,ページの推薦度の強さに違いが現れた.また, (前巻)の読者のみ意欲増進につながるページ数は,(未読)の読者のみの場合と比較して およそ倍になることも明らかになった.
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さらに(前巻)および(未読)のデータセットにおいて,推薦度の高いページの内容にどの ような違いが現れるかを定性的に分析したところ,以下のような結果となった.
l 恋愛ジャンルにおいて,(前巻)では人物の関係が変化する場面が,(未読)では人物
の回想が会話で表現されている
l バトルおよびスポーツジャンルにおいて,(前巻) では戦いや試合の場面をイラスト
で強調しているが,(未読)では人物関係や試合の状況が会話で説明されている
l SF ジャンルでは,(未読)において,登場人物がピンチになる場面や,それを乗り越
える場面がイラストで強調されている
本研究の貢献をまとめると以下の 2 つである.
l 読書状態の違いによって,同一シーンを閲覧した場合でも続きを読むことへのモチベ
ーションに違いが生まれることを明らかにした
l 推薦されるページの内容について,イラストと会話の要素のどちらを重視したページ
が推薦されるかは,漫画のジャンルと読書状態に依存することを定性的に明らかにし た