Abstract
Web 上には多くのユーザの失敗や悩みを誘発するようなユーザインタフェース(BADUI) が多く存在している.その中でも,特に Web フォームでは,ユーザの誤った入力を誘発し てしまうものや,入力のための手がかりが欠如している BADUI が存在し,日々利用する 人々を困らせている.ここで,Web フォームは,UI と内部のプログラム及びデータベース が求める文字形式の間にギャップが存在する場合や,UI に内部が求める文字形式が表記さ れていない場合に BADUI となることが多い.こうした原因と Web フォーム内に配置され ている入力ボックス数から,誤った文字形式の入力をしてしまう BADUI は 8 種類に分類 できる.
過去の研究において,BADUI の問題を解決するため,開発時に守るべき Web フォーム のガイドラインやヒューリスティクス評価法のようなユーザビリティの問題点を見つけ出 すための研究が盛んに行われている.また,サービス公開後に BADUI の自動検知と開発者 への報告を可能とするシステムが開発されている.さらに,ユーザからのフィードバックを 参考にすることで BADUI を改善するといった解決策が考えられる.しかし,こうした手法 が有用であるにも関わらず,サービス運営者のリソース不足やユーザビリティへの意識の 低さといった理由により,Web フォームの BADUI が放置されることは珍しくない.
我々はこれまでの研究で,放置された Web フォームの BADUI の改善を目的として,エ ンドユーザが Web フォームの BADUI を改善可能とする手法を提案してきた.また,手法 を実現するため,付箋型アノテーションや入力例付与による手がかり提示機能,変換フィル タによる入力の自動修正機能の付与を可能とするシステムである WePatch を実装した.し かし,WePatch の問題点として,改善機能が Web フォームにおけるユーザの負担を実際に 減らすかどうかは明らかでないこと,また,改善機能を付与するための操作がユーザにとっ て手間であることの 2 つが挙げられる.
そこで,第 1 に,BADUI に改善機能が付与された後,実際に負担が減るかどうかを検証 するため,BADUI の Web フォームにおける入力タスクを実施した.また,その過程でユ ーザの操作時間やエラー数といった定量的な値を取得し,改善前と後の値の比較を行なっ た.結果として,入力の自動修正機能はユーザの負担を減らすことが可能であり,従来の研 究で有用であると考えられていた付箋型のアノテーションによる手がかり提示は,ユーザ の負担を増やしてしまうことが明らかになった.
第 2 に,WePatch の改善機能の付与の手間を減らすことを目的として,Web 上における ユーザの失敗操作と正解操作を利用することで,BADUI を検知し,ユーザに対して適切な 改善機能の推薦を行う,半自動的な BADUI 改善手法を提案した.また,提案手法を変換フ ィルタにおいて実現したシステムである WePatch 2 を開発した.この WePatch 2 の評価実 験として,BADUI を含んだ Web フォームにおける入力タスクと BADUI 改善タスクを行 なってもらうユーザベース実験を行なった.その結果として,ユーザによって変換フィルタ
が付与されることにより,Web フォームのユーザビリティが向上することが明らかになっ た.しかし,この実験では WePatch 2 の改善機能の推薦アルゴリズムや,用意した実験用 Web フォームの設計に課題があることが明らかになった.また,WePatch 2 を BADUI 検 知精度の観点から評価していないという問題があった.
そこで,追加の評価実験として,WePatch 2 の推薦アルゴリズムを改良した WePatch 2+ の実装と実験用 Web フォームを改良した上で,ユーザベース実験同様に,BADUI を含ん だ Web フォームにおける入力タスクと BADUI 改善タスクを実験協力者に依頼した.結果 として,WePatch 2+はページ内で 5 人のユーザが入力することで 8 割,11 人で 9 割の改 善対象の BADUI が改善可能であることが明らかになった.また,半自動 BADUI 改善手法 と,その手法における変換フィルタの推薦フェーズを省いた自動 BADUI 改善手法の適合率 を比較した結果,半自動 BADUI 改善手法の方が 1 割以上高く,半自動改善手法の方が自動 改善手法よりも有用であることが明らかになった.
今後の本研究の応用としては,半自動 BADUI 改善手法により,変換フィルタが付与され た BADUI ページの情報を収集することで BADUI データセットを構築し,機械学習を用い て BADUI ページの自動推定や,改善機能の自動付与,開発者への BADUI の報告が可能に なると考えられる.