Abstract
肌質や化粧の仕上がりの好みは人によって異なることもあり,多くの消費者の需要に応じて多種多様な化粧品が開発されている.例えばファンデーションのみに絞っても,シミを隠すカバー力を重視したもの,崩れにくさを重視したもの,自然由来の成分にこだわったもの,ツヤのある肌に仕上がるものなど様々な種類の商品がある.
ここで,化粧品の選択を誤ると肌荒れや仕上がりの悪さに繋がるため,化粧品の購入に失敗したくないと考える消費者は多く,インターネット上のクチコミを参考にすることがある.しかし,化粧品のクチコミは本当に利用しているのかを肌の写真からは確認しづらいことや併用した化粧品の相性で仕上がりが変化することなど信憑性の判断を難しくする要因を抱えている.そこで本研究では,化粧品に特化した信憑性評価軸を検討し,その評価軸を用いてクチコミの信憑性を評価するシステムを提案する.本研究の対象は化粧品のクチコミ閲覧時に信憑性を判断することが苦手な人であり,そうした人が信憑性を意識しつつクチコミを閲覧できるよう支援することを目的とする.
まず,化粧をする人への基礎調査を行い,化粧品のクチコミの利用状況やどのような点で信憑性を判断しているのかを調査した.その結果,クチコミの信憑性を判断する基準は文章・画像・投稿者の大きく3つに分類できることを明らかにした.この中でも,文章に関する回答では,人によって信憑性が高いと感じるクチコミの特徴が大きく異なることが明らかになったため,これ以降は文章に着目し,研究を進める.
次に,クチコミの信憑性データセット構築を行い,信憑性評価軸を検討した.データセット構築では,実際にインターネット上に投稿されたクチコミ300件を収集し,どういった記述があるクチコミが信用されやすいのかを調査した.このデータセットを分析し,信憑性評価軸の候補を検討した.
そして,この評価軸の有用性を検証するために,使用状況別にクチコミを323件作成し,評価軸に沿ったアノテーションを付与した.機械学習を用いて81.7%の精度で化粧品の使用状況を判別可能であると示した.
次に,検討した信憑性の評価軸を利用し,化粧品に特化したクチコミ信憑性評価システムを開発した.また,このシステムをユーザに使用してもらうことで,システムを利用した際の信憑性への意識の変化を調査するとともに,システムの改善点について検討した.その結果,元々信憑性を意識していなかった実験協力者が信憑性の提示により信憑性を意識するようになることや信憑性提示の見方にも個人差が観察されたため,その個人差に対応可能なシステムにする必要があることが明らかになった.また,得られたフィードバックからシステムの改良を行い,再度システムの評価実験を行った.2度目の実験では,システム利用中に画面録画を行い,システム内の機能をどのように使用しているのかを調査した.
本研究の提案システムは化粧品に特化したものであるが,他のジャンルのクチコミへの応用可能性や化粧品のクチコミがもつ独自性について議論するためにアンケート調査を行った.調査の結果,20〜24歳の若い世代では化粧品のクチコミを頻繁に閲覧する人が多く,閲覧にはSNSが利用されやすいことや,フォロワー数の多いユーザによるクチコミが参考にされやすいといった化粧品のクチコミがもつ特性が明らかになった.この結果をふまえ,今後はSNSでのクチコミに対応可能なシステムにしていくことやフォロワー数の多いインフルエンサのクチコミの扱い方に関する検討が必要であることが示された.また,参考にするクチコミの特徴はどのジャンルにも共通するものが多く,現在検討した評価軸を他に応用できる可能性が示唆された.