Abstract
日常生活において選択を必要とする場面は多く,パソコンやスマートフォンを用いる場合にもそのような場面は存在する.また,その選択は,人間の習性や心理効果に左右されることが知られている.そのため,ユーザの選択を伴うWebサイト,およびアプリケーションのUI(User Interface)デザインには,商品や情報を提供する側の意図にあった様々な工夫がなされている.しかし,その工夫の中でユーザに意図しない選択を誘導するダークパターンと呼ばれるデザインが存在し,問題視されている.そうしたダークパターンには,誘導したい選択肢を強調表示したり,チェックボックスにデフォルトでチェックを入れたりなど誘導の意図がわかりやすいものだけでなく,ユーザからは公平に見えて誘導に気づきにくいUIも存在する.そこで,著者は待機画面に表示するプログレスバーも実は選択を歪めてしまっているのではないかと考えた.
多くのウェブサイトやアプリケーションにおいて,ユーザが待機する画面に視覚刺激が表示される.視覚刺激を表示する目的はユーザが知覚する待機時間を短くするためである.視覚刺激の中でもプログレスバーは処理が正常に進行していることを確認できることや,タスクが完了する時間を推定することができるなどの利点から多くのサイトで用いられている.しかし,プログレスバーはユーザがタスクの完了時間を推定するために視線を集中させるものであり,アニメーションをともなうものではユーザの視線を誘導し,待機後の選択行動に影響を及ぼす可能性がある.
そこで本研究では,プログレスバーに関する要素について,5つの要素(プログレスバーの表示位置,アニメーションの向き,画面遷移直前のアニメーション位置,長さ,表示時間)が待機後のユーザの選択行動に及ぼす影響を調査し,各調査の結果から選択誘導の可能性を明らかにしたうえで,選択誘導が起きる条件,分散が起きる条件を明らかにする.
まず,プログレスバーの表示位置とアニメーションの向きが及ぼす影響について「プログレスバーのアニメーションの終端付近に配置された選択肢が待機後に選ばれやすくなる」という仮説をたて調査した.その結果,プログレスバーが上側に表示された場合よりも下側に表示された場合の方が,待機後の選択が偏ること,およびアニメーションの向きが右から左に進行するよりも左から右に進行する場合の方が,待機後の選択が偏ることが明らかになった.しかし,プログレスバーのアニメーションの終端付近に選択が偏ることはなく,仮説と異なる傾向がみられた.そこで著者は,プログレスバーが100%になる直前で,ユーザが視線でアニメーションを追わなくなっている可能性があると考察した.
そのため,次に行った調査では特定の位置までアニメーションしたら画面遷移するプログレスバーを用意し,「画面遷移直前のアニメーション位置付近にある選択肢が選ばれやすくなる」という仮説をたて,画面遷移直前のアニメーション位置が待機後の選択に及ぼす影響を調査した.その結果,アニメーションの前半で画面が遷移した場合に最終位置のやや右に選択が偏る可能性が示唆された.
次に,著者はプログレスバーの長さが待機後の選択に及ぼす影響を調査した.その結果,待機時間が長い場合に,プログレスバーの長さが長い方が,待機後の選択が偏ること可能性が示唆された.
以上で行った実験の結果から,プログレスバーの提示時間が及ぼす影響を考察し,提示時間が短い場合の方が,選択が偏ることなどがわかった.また,特定の位置に対しての誘導可能性を考察し,「プログレスバーを上中下で表示した場合,表示位置が下になるにつれて右から2列目の選択肢に対する選択率が高くなり,左下の選択率が低くなる」という仮説をたて調査を行った.その結果,表示位置が下側になるにつれて右から2列目,左下にある選択肢に対する選択率が高くなり,左端の列にある選択肢に対する選択率が低くなり仮説を指示するような結果となったが,最上部,最下部に表示した場合は仮説と異なる傾向がみられた.