Abstract
実験や作業を繰り返すうちに,作業者にはさまざまな影響が生じる.その中でも特に注目すべき影響の一つとして,特定の作業を繰り返すことで生じる慣れが挙げられる.慣れの影響には,作業の効率化や安定化をもたらすものと,無意識状態での作業や思考が間に合っていない状態での作業のような不適切なものの2種類があると考えられる.特に,不適切な慣れは作業者自身がその影響を受けていることに気づかないまま,誤った判断や適切でない意思決定をしてしまう原因となり,結果に悪影響を及ぼす可能性がある.
本研究では,作業者に生じる不適切な慣れの影響を検出し,その影響が見られた場合に注意喚起を促し作業者の状態を改善させるための指標を作成することを目的とする.具体的には,作業中に取得可能な指標として回答時間とマウス軌跡に着目し,不適切な慣れを検出するための指標を作成する.さらに,これまでに行われた実験データの分析および新たに実施する実験を通して,不適切な慣れが作業者の行動や意思決定にどのような影響を与えているかを調査する.
まず,不適切な慣れの一つの事例であるリズム感覚で回答してしまう点に着目し,回答時間を指標とした不適切な慣れの影響分析を行った.ここでは,作業者を回答時間の変化パターンに基づき真面目群,不真面目群,リズム化群の3つに分類した.その結果,回答時間が収束していくリズム化群では,作業の後半に進むにつれ同じ位置に提示された選択肢を連続して選択する傾向があることが分かった.これは,作業が進むにつれ意識的な判断が低下し,無意識の選択が増えるといった不適切な慣れの影響を受けている可能性があることを明らかにした.
次に,不適切な慣れが作業者の意思決定プロセスにどのような影響を及ぼしているかを分析するために,操作しているマウスの軌跡を指標として不適切な慣れの検出を行った.ここでは,マウス軌跡をその形状を基に直線型,旋回型,方向転換型,中心維持型の4つのパターンに分類し,それぞれの分類パターンが連続した場合の回答傾向に着目した分析を行った.その結果,思考を挟みながら選択する旋回型,方向転換型の2種類の軌跡パターンでは不適切な慣れの影響が見られなかったが,単純な操作のみで選択を完了させる直線型および中心維持型のパターンが連続する場合には,不適切な慣れが生じている可能性が高いことを明らかにした.
さらに,不適切な慣れが正解・不正解を伴う選択作業に与える影響を検証するため,2桁の足し算を用いた実験を実施し,前述した回答時間とマウス軌跡を指標とした分析を行った.ここでは,実験設計に合わせてマウス軌跡をなぞり型,放置型の2パターンに再定義して不適切な慣れの影響について分析を行った.その結果,回答時間が短縮すると誤答が増加する傾向があること,また,放置型の軌跡パターンが連続する場合には誤答の発生率が高まることが明らかになった.これは,作業効率を優先しすぎることや,無意識に形成された習慣などの不適切な慣れの影響が誤った選択を誘発する要因となっている可能性を示していると考えられる.
以上の結果をもとに,本研究では不適切な慣れの検出指標として「回答時間が減少していること」および「素早い意思決定を行う場合の軌跡パターンが連続すること」の2点を定義し,これらの指標を活用することで不適切な慣れの検出を行える可能性があることを明らかにした.
Information
Book title
明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(工学)
Date of presentation
2025/02/12
Citation
髙久 拓海. Web上での繰り返し実験で不適切な慣れが回答に及ぼす影響, 明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(工学).