Abstract
化粧は日常的に行われているが,多くの人はTPOなどの生活場面に合わせて化粧を変えることから,ひとえに化粧と言ってもその工程は様々で複雑に分岐している.また化粧は,複雑な化粧の手順書が自身の頭の中にしか存在しないうえ,他者に教えてもらう機会が少ないことから,我流で化粧を行い,自身のメイクの腕前に自信がない人が多く存在する.
近年,他者の化粧法を知るツールとしてSNS上の化粧のチュートリアル動画が人気となっている.しかし,既存のキーワード検索では個人の化粧工程を考慮して動画を探索することは困難であり,動画を視聴しても自身の化粧工程と大きく異なり参考にしづらいことも多い.こうした問題は,化粧工程を工学的に扱えないことに起因する.
そこで本研究では,化粧工程の構造化手法としてフローチャートに着目し,化粧工程に特化したフローチャートを提案するとともに,構造化システムMake-up FLOWを実装する.そして,化粧フローチャートの活用により化粧法の取り入れ支援を実現し,メイクの腕前に対する自信の獲得に貢献することを目指す.
まず,フローチャートによる化粧工程の適切な表現形式について調査を行った.その結果,あらかじめ工程の選択肢を設定し,工程を表すノードには施術部位,使用するアイテム,アイテムのテクスチャの3つの情報を記載する必要があることが明らかとなった.本調査の結果をもとに,化粧工程の表現に特化したフローチャート形式を提案するとともに,構造化システムMake-up FLOWのプロトタイプシステムの実装を行った.システムの利用実験の結果,構造化により自身の化粧工程を俯瞰できることが示唆された.また,提案手法は汎用的な化粧フローチャートの作成手法として最低限の機能を有しており,化粧工程の表現手法の基礎の確立を確認することができた.
次に,化粧フローチャートをもとに他者間の化粧工程の類似度を算出する手法について検討を行った.なお,類似度算出手法としては標準化レーベンシュタイン距離と,N-gram頻度に基づくコサイン類似度の2手法を採用した.その結果,レーベンシュタイン距離の方が全体的に類似度が高く,部位のみとアイテム・テクスチャの標準化レーベンシュタイン距離の和を用いることで,同一化粧ノードが多く,部位の流れと各部位の工程数の分量が類似しているユーザのペアを得られることが明らかとなった.
そして,提案手法の化粧動画推薦への応用可能性を検証するため,美容系YouTuber53名の103本の化粧のチュートリアル動画から化粧フローチャートデータセットを構築した.そのうえで化粧工程の類似度に基づいて,美容系YouTuberの化粧動画をユーザへ推薦する実験を行った.その結果,化粧工程の前半部分のみを使用して算出したレーベンシュタイン距離に基づいて動画を推薦した場合に,動画の評価の高さとの間に弱い相関が見られた.しかし精度としては不十分であり,化粧工程の類似度のみに基づいて動画を推薦することの限界が示された.
最後に,提案手法の化粧工程取り入れ支援への応用可能性を検証するため,他者の化粧フローチャートまたは化粧動画を検索可能であり,なお且つ自身の化粧工程に取り入れ可能な仕組みMake-up FLOW 2.0を提案した.システムを利用した実験の結果,施した化粧の満足度は高く,取り入れた多くの工程が効果的に作用したことが明らかとなった.また,化粧フローチャートの提示により,動画視聴前に自身にとっての動画の有益度を測定可能であり,視聴時にも自身の工程に基づいて情報を取捨選択し,参考になる情報を効率的に蓄積できることが示唆された.加えて,化粧工程の類似度の高さに基づいたソート機能が特に有効であり,従来の検索にはない動画に対する新たな興味を喚起する可能性が示された.
以上の実験より,化粧工程を工学的に扱うことで,ユーザにとって実践しやすく参考となる化粧情報を効率的に収集・蓄積できることが示唆された.この効果の継続により,メイクの腕前に対する自信の獲得への貢献が期待される.
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Information
Book title
明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(工学)
Date of presentation
2025/02/12
Citation
髙野 沙也香. Make-up FLOW: 化粧工程の構造化手法の提案と工程の活用による化粧支援手法に関する研究, 明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(工学).