学位論文

ペンギンの腹部模様に注目した描画型検索手法の提案とその検証

Abstract

動物園や水族館は,様々な生き物を観察しながら楽しむ施設であるが,生き物を漠然と観察するだけではその後の記憶につながらない.特に,ペンギンは多くの水族館で展示されており,人気の生き物である一方,数十羽単位で多数飼育されていることが多く,俯瞰的な観察にとどまりやすい.本研究ではまず,ペンギンを飼育する動物園・水族館を訪問し,既存の展示方法やその工夫を調査した.その結果,多くの水族館では観察を促しつつペンギンへの興味を高めることを目的として,それぞれの個体に名前やバンドつけその紹介をしていた.こうした展示は,その生き物に対する印象や愛着につながるものであるが,来館者自身がペンギンを識別することは容易ではなく,記憶に結びつきにくい.そこで本研究では,観察体験をより良いものとするため,ペンギンの特徴的な腹部模様に着目し,模様を描画しながら観察および名前を検索する手法を提案した. ペンギンの腹部模様を描画するプロトタイプシステムを実装し,実験により収集した腹部模様描画の類似度分析を行った.その結果,同じペンギンについての描画の類似度が高くなる傾向を明らかにした.また,描画順の分析から,同じペンギンの描画順は似通うことを確認し,描画を用いたペンギン検索の可能性を示した.さらに,ペンギンの描画データセットを構築し,描画から名前を検索するアルゴリズムの精度を評価した.その結果,推定したペンギンランキングの上位3位以内正解率が93.0\%と高い精度で推定できることがわかった. 次に,水族館でペンギンを観察することを想定し,スマートフォン上で腹部模様の描画・個体検索ができるシステムを実装した上で,システムの利用がペンギンの記憶に与える影響を水族館での実地実験により調査した.実地実験では,本システムを用いて観察した場合と,バンドによる識別システムを用いて観察した場合とを比較し,提案システムの有用性を検証した.その結果,本システムを用いた観察により,個体の特徴や個々のペンギンに対する関心が高まることや,本システムはバンドによる識別と比較してペンギンの記憶容易性がバンドの色や名前自身に影響を受けづらく,人によって異なるペンギンが記憶に残りやすい可能性が示唆された.

Information

Book title

明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(工学)

Date of issue

2025/02/12

Date of presentation

2025/02/12

Citation

中川 由貴. ペンギンの腹部模様に注目した描画型検索手法の提案とその検証, 明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(工学), 2025.