Abstract
色はデザインにおいてメッセージの強調や視認性の向上などの役割を持ち,その選択には主に色選択インタフェースが用いられる.ここで,色選択インタフェース上で選択した色とキャンバス上に塗られる色でイメージが異なることがある.その原因として色選択インタフェースが起こす錯視が考えられる.例えば,キャンバスの背景色とインタフェース上の背景色が異なることによって同じ色が表示されているにもかかわらず色の見え方が異なってしまう.錯視によって本来ユーザが想定していた色と異なる色が描画されると,意図や直感と反するうえ,その修正においてユーザの手間を増加させてしまう.そのため,錯視を考慮した色選択インタフェースは,ユーザの意図に沿った色選択を行ううえで重要であるといえる.
そこで本研究は,錯視を考慮した色選択インタフェースの実現を目的とする.具体的には,色選択インタフェースにおいて錯視が発生する要因を検証し,その改善を目指した.
まず,色の見かけの明るさが周辺の明るさに応じて変わる現象である明るさの対比現象に着目して調査を行った.実験では,ターゲット色と選ぼうとする色の周辺色が異なる状態で色合わせタスクを実施し,その誤差を検証した.その結果,周辺色の明度が低い条件では,選ぼうとする色が明るく見えるためターゲットより暗い色を選択し,周辺色の明度が高い条件では,選ぼうとする色が暗く見えるためターゲットより明るい色を選択することが明らかになり,色選択における明るさの対比現象が確認された.このことから,色選択インタフェースにおいて選ぼうとする色の周辺にある色が色選択を阻害している可能性が示された.
次に,選択される色が表示される大きさとその周辺色の色相が色選択に及ぼす影響について調査するために再度色合わせタスクによる実験を行った.実験の結果,周辺色の色相について,黄色と緑に分類されるグループで平均誤差が最も小さかったものの,特徴は大きく表れなかった.一方,表示される大きさについて,ターゲットより面積が小さくなるほどターゲットとの誤差が大きくなることが明らかになった.そのため,カラータイルが小さく表示されるパレットはユーザにとっての色の見え方とずれが発生している可能性が示された.これらの結果により,選ぼうとする色の周辺色と表示面積が色選択インタフェースにおける錯視の要因であることが示された.
そして,これらの知見を活かして,錯視を考慮した色選択インタフェースをPowerPoint上で実装した.具体的には,インタフェースそのものの背景色を透明にすることで,カラータイルをキャンバス上に直接かざすことでインタフェースの周辺色に影響されずに色の見え方を確認できるようにした.また,カラータイルを大きく表示することで面積の小ささによる色選択の阻害が発生しないようにした.提案手法の効果を検証するために,周辺色や背景色が異なる状況における色合わせタスクを実施した.実験の結果,提案手法によるパレットは,錯視が発生するパレットと比較してタスクの正答率が高く,色の選択回数が少なくなることがわかり,ユーザの意図した色選択を行ううえで有用である可能性が示された.特に,背景色上にあるオブジェクトに色を塗りつぶしたい場合に,より正確に色を選べることが明らかになった.
以上の実験と分析から,色選択インタフェースはそのデザインによって錯視が発生するため,表示色や面積の設計を考慮する必要があること,また,錯視を考慮したインタフェースによって正確で修正の手間が少ない色選択を行える効果が期待されることが示された.色選択インタフェースにおける錯視の改善は,意図した色表示によってユーザの負荷を軽減させ,さらなる色の検討を起こすことが期待される.