学位論文

周辺視野への視覚刺激提示がプログレスバーの主観的な待機時間に及ぼす影響

Abstract

多くのアプリケーションにおいて,画面の読み込みやファイルのロードなどは必要不可 欠な処理であり,これらの待機時間中にユーザへプログレスバーなどの視覚的なフィード バックを提供することで残りの待機時間を提示し,体感時間を短縮するのが一般的である. また,プログレスバーによる体感時間短縮効果を高めるため,プログレスバーへのアニメー ション付与や,インタラクティブな要素の付与などによって体感時間がより短縮すること もわかっている. 筆者は,過去の研究において,PC 作業時に周辺視野へ視覚刺激を提示することで,体感 時間が増減することを明らかにした.具体的には,PC で文字をタイピングしている際に, ディスプレイの外周部分に沿って運動する光点を提示することで,ユーザの体感時間を短 縮する手法を提案し,実験から周辺視野を活用することで体感時間がより短縮することを 示した.ここで筆者は,周辺視野を活用する体感時間短縮手法と,既存の体感時間短縮手法 を組み合わせることで,体感時間をより短縮することが可能になると考えた. そこで本論文では,中心視野へプログレスバーを提示し,合わせて周辺視野へ視覚刺激を 提示することで体感時間の変化を強める手法を提案し,4 つの実験によってその有用性を示 す. まず,提案手法の効果を検証するための実験を行った.具体的には,10 秒程度のプログ レスバーを提示し,合わせて周辺視野へ視覚刺激を提示することで体感時間への影響を調 査した.その結果,次第に減速する視覚刺激を周辺視野へ提示することで,プログレスバー のみによる効果と比較して体感時間がおよそ 3%短縮されることが確認された. 次に,周辺視野へ提示する視覚刺激と背景画像とのコントラスト比について調査を行っ た.最終的に Web ブラウザにおいて提案手法を使用する想定であるため,背景画像とのコ ントラスト比がどの程度確保された時に提案手法の効果が確認されるのかを検証した.ま た,周辺視野は運動する物体に敏感に反応する特性が知られているため,中心視野では見え ない程度のコントラスト比であっても,提案手法の効果が見られることを期待した.結果と しては,コントラスト比は 1.5 程度必要であり,中心視野で見えない程のコントラスト比で は提案手法の効果が得られなかったものの,十分なコントラスト比であれば実験 1 と同様 の効果が得られたため,提案手法の効果について再確認することができた. 3 つ目の実験ではより短い待機時間を対象に実験を行った.実験 1 では,扱っていた時間 条件が 8 秒から 12 秒であり,非常に限定的であった.そのため提案手法が他の時間条件で あっても有効であるかを検証するため,時間条件を 2 秒から 12 秒に拡張し,より短い時間 条件でも実験を行った.その結果,短い待機時間においても体感時間が短縮する傾向が見ら れることが明らかになった. 最後に,これら 3 つの実験結果をもとに Web ブラウザを想定した実験を行った.提案手 i 法の目的は,画面読み込みなどで発生する数秒程度の待機時間を短く体感することである. そこで,画面読み込みを発生させるためのタスクとして,Web ブラウザを使って調べもの をしている状況を想定したタスクを設定した.また,この実験では体感時間が短縮するかで はなく,短縮した際にユーザの行動や生理指標にどのような変化が見られるかを検証した. 実験の結果,提案手法を提示した際にユーザのブラウザバック回数が減少する傾向が見ら れた.これは,普段であれば待っていられずブラウザバックしてしまうほど⻑い待機時間で あっても,提案手法を用いることで短く体感できたことによる結果であると考えられる.

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Book title

明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士論文(理学)

Date of issue

2019/02/01

Citation

松井 啓司. 周辺視野への視覚刺激提示がプログレスバーの主観的な待機時間に及ぼす影響, 明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士論文(理学), 2019.

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