Abstract
手帳やリマインダ,タスク管理アプリなどを使うことで,自身がやるべきことややりたい ことを情報として外在化させ,忘れないように管理する人は一定数存在する.しかし,これ らの管理方法の多くはタスク内容を忘れずに思い出せるように管理するものであり,タス クを整理して効率的に実行することはできても,タスクを行なうためのモチベーションに は繋がりにくいといった問題がある.ここで人は画像を見ることによって,その画像内容に 沿った行動を無意識的に行なうことや,画像に写っている対象への印象が変化することが 知られている.そこで本研究では,従来の文字ベースのタスク管理ではなく,ビジュアルイ メージである画像を用いて,タスクへの行動を促すトリガを管理する手法を提案する.そし て,画像による行動変容や印象変化の効果によって,タスク管理においてのモチベーション の増加やタスクへ行動促進に繋がるかどうかを明らかにした.
本稿ではまず,画像で表現されたタスクが文字で表現されたタスクと同程度に,情報を外 在化して思い出すためのトリガとしての機能を満たせているか確認するために実験を行っ た.この実験では,実験協力者が文字と画像でそれぞれ表現したタスクの想起率を比較する ことで,タスクを画像として表現しても文字同様にタスク内容を問題なく想起可能である ことが示された.
次に,画像をタスクとして管理できるプロトタイプシステムを用いた使用実験を行なう ことで,画像によって管理されるタスクの利用傾向とその役割を考察した.その結果,プロ トタイプシステムの利用傾向から,見ることによってやる気を起こさせる使い方をしてい る例が存在した.このことから,画像というタスク表現形式によって,タスクへのモチベー ションが得られるトリガとなる可能性があることが示唆された.
さらに,使用実験で可能性が示唆された画像によるモチベーションの向上を,定性的にだ けでなく定量的にも評価するために,文字と画像の表示形式によってタスクの達成度に差 が生じるかの比較実験を行なった.その結果,全体では文字と画像の二者間において達成度 に差は見られないものの,タスクを画像としてどう表現するかによって達成度に差がある 傾向が見られた.例えば,イラスト画像のようにタスクを抽象的な絵として表現した場合は 達成度が低く,逆にタスクに直接関連するものを被写体とした画像では達成度が高い傾向 にあった.このことから,同じ画像で表現されたものであっても,その画像からタスク内容 が想像しにくいと考えられる抽象的な表現方法ではモチベーションに繋がりにくく,一方 でタスク内容を想像しやすいタスクを具体的に表現した画像はモチベーションに繋がりや すいのではないかという仮説を立てた.
そこで,表現方法の違いによるタスクへのモチベーションの差を見るために,画像の表現 方法を 3 パターン(抽象的なイラストで表現された画像・抽象的だが画像で表現された画 像・具体的にタスクに関連するものを被写体にして表現された画像)に分け,文字によって
表現されたタスクを含めて改めて実験を行なった.この実験ではタスクへのモチベーショ ンを測るには達成度だけでは不十分だと考え,タスク確認してから実行するまでの時間差 も計測した.その結果,タスクの達成度に関しては大きな差は見られなかったが,タスクを 確認してから実行するまでの時間差においては差が見られた.「具体的にタスクに関連する ものを被写体にして表現された画像」と「抽象的だが画像で表現された画像」が短時間でタ スクを実行に移しており,次いで「文字で表現されたもの」,「抽象的なイラストで表現さ れた画像」の順でタスク実行に移るまでの時間差が短い結果となった.これらの実験結果か ら,タスクの行動を想起しやすい画像にすることで,タスクへのモチベーションが向上する ことが明らかになった.