学位論文

遂行の意思に関する選択肢を用いたタスク消化促進手法

Abstract

日常生活を送るうえでやるべきことは多数あり,人はこれをタスクとして設定し,消化しながら生活している.しかし,状況などによってすぐにタスクが消化できないことが続き,タスクを蓄積してしまう人は少なくない.これを防ぐため,タスクを手帳やリマインダー,ToDoリスト,最近ではスマートフォンアプリケーションを用いてタスク管理を行っている人も多いが,それでもタスクを消化できないことは少なくない.これは,従来のタスク管理手法では人がタスクを遂行するに至るまでのモチベーションへと結びついていないことが要因であり,ユーザ自身でタスク遂行に対するモチベーションが向上させるような手法やきっかけが重要であることが考えられる. ここで,過去の研究において,自身が行動を決定することによる内発的な動機付けによって行動へのモチベーションが向上し,行動の集中力やパフォーマンス,学習効果などを高めることに繋がることが明らかになっている.この自己決定による内発的動機付けをタスク管理に用いることで,ユーザのタスクに対するモチベーションを向上させ,タスクの遂行を促進することでタスクの未消化を防ぐことができるのではないかと考えられる. そこで,「タスクに取り組む」という遂行の意思を選択することによって,タスクに対するモチベーションを向上させ,タスク遂行を推進する手法を提案する.具体的には,タスクに対する通知に付随する「する」「しない」の2つの選択肢の中から「する」を選ぶ.この行為が「タスクを『する』」という自己決定による内発的動機付けとなり,タスク遂行のモチベーションが向上し,タスクの未消化を防ぐことができるのではないかと考えられる.本稿では,提案手法について,毎日継続してできるタスクを用いた,通知方法の違いによる比較実験を行うことにより,提案手法がタスク遂行に与える影響や有用性,提案手法と相性がいいタスクなどについて明らかにした.また,提案手法に基づくプロトタイプシステムを実装し,ユーザからのフィードバックを得ることによって,タスク管理システムにおける提案手法の有用性を明らかにした. 本稿では,まず,選択肢が付いていない一般的な通知方法と提案手法を比較した参加者間実験による予備実験を行った.その結果,提案手法によってタスクへの主観的な達成感と積極性が高くなる場合があることが明らかとなった.また,遂行に対して消極的なタスクにおいて,通知時間と実施時間の差が少ない場合があることも明らかとなった.さらに,提案手法群の実験協力者から,実験に際して予め設定したタスクを遂行する時間を意識することができた,という意見も得られた.これらのことから,提案手法は一般的な通知方法に比べて積極的かつ意識的にタスクを遂行しており,タスクのモチベーションを内発的に向上させる可能性が示唆された.しかし,予備実験において,遂行の意思を選択することによるタスク遂行に与える影響については明らかにできなかった. 次に,予備実験で明らかにできなかった「タスクについて選択肢の中から『する』を選ぶことでタスク遂行に対するモチベーションが上がる」ということに着目した本実験を実施した.本実験では予備実験から実験設計をいくつか変更した上で実施した.具体的には,タスクの再選定や参加者内実験への変更,提案手法との比較対象を選択肢が1つ付随した通知方法としたことがあげられる.また,タスクを「する」といを押した30分後に,実際にタスクに取り組んだのかをアンケート回答してもらった.アンケートの結果を手法間で比較したところ,提案手法によってタスクを「する」を選んだ時はタスクを30分以内に取り組んでいた.また,比較手法では日数が経過すると遂行率は減少するが,提案手法では遂行率は2週間維持された.これらのことから,「タスクを『する』」という選択肢を押下することでタスクを30分以内に取り組むようになること,その効果が2週間維持されることが明らかとなった.また,タスク別の結果から,Webページにアクセスして遂行するタスクについて,提案手法を用いた時に30分以内の遂行率が有意に高かったことが明らかとなった.また,提案手法の場合に30分以内の遂行率が向上していた実験協力者は,提案手法によって「あとでやる」と回答した割合が減少していたこと,両手法間において30分以内の遂行率に差がなかった実験協力者は手法に関わらずほぼ全てのタスクを30分以内に遂行していることが明らかとなった.このことから,提案手法はタスクの遂行を後回しにする傾向がある人に対して効果的であった.以上のことから,提案手法によってタスク遂行のモチベーションが向上し,タスクを後回しにせずに取り組むことを明らかとなり,提案手法によってタスクの未消化を防止可能であることが示された. 最後に,提案手法に基づいたタスク管理システムをiOSアプリケーションとして実装した.本システムでは,ユーザが登録するタスクについて,任意の時間に通知するよう設定でき,設定した時間に「する」「しない」の2つの選択肢が付いた通知が届く仕組みとなっている.このシステムをユーザに使用してもらった結果,「する」を選ぶことによってタスクに取り組む気持ちの切替えができたことや,毎日取り組むようなタスクと相性が良かったことなどが意見として得られた.この結果から,提案手法に基づいたタスク管理システムがタスク遂行のモチベーション向上に役立ち,特に日常的に取り組むようなタスクを忘れずに遂行できることが示された. なお,提案手法は,タスク内容の通知に「する」と「しない」の2つの選択肢を付与する,という単純な手法である.そのため,既存のタスク管理手法や,スマートフォンの通知の文言の選定など,様々な手法や工夫と組合せることが容易である.将来的に提案手法が組み込まれたタスク管理システムによって,ユーザのタスクの未消化をさらに防ぐことが期待される. 

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Book title

明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(理学)

Date of issue

2020/02/12

Citation

神山 拓史. 遂行の意思に関する選択肢を用いたタスク消化促進手法, 明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(理学), 2020.