学位論文

タスク周辺への視覚刺激を用いたPC上タスクに対する集中度向上手法の研究

Abstract

我々の生活の中には様々なタスクが存在する.特に,PC の普及により現代においてレポ ートを書いたり,発表用の資料を作成したりといった PC を用いるタスクは多く存在してい る.多くの人々はこれらのタスクをできるだけ早く終わらせたいと考えている.しかし,タ スクを早く終わらせるために集中してとりかかろうとしても,長く集中を継続させること が困難だと感じる人も多い.本研究では,この集中の継続が困難であるという問題に着目す る. 本研究では,集中を阻害する原因として,タスクの最中に他のものが視界に入ってしまう ことを考えた.例えば,調べ物をしているときに,本来の目的とは関係がない気になる記事 が目に入って,作業を後回しにしてその記事を読んでしまったり,PC での作業中に SNS の 通知が現れることでその確認のために作業が中断されてしまったりといったことがある. これらのように,作業中に視界に入ってしまうことで集中の継続が難しくなることは珍し くない.集中が継続できないと仕事や作業の効率が低下してしまう.そこで本研究は,タス クの継続を支援することを目的として,タスクの周辺を視覚刺激で囲むことでタスクの存 在を強調し,タスクから意識が逸れにくくすることで集中を継続しやすくなる,という仮説 をたてた.このタスクを視覚刺激で囲む手法の有用性を検証するために3つの実験を行っ た. まず1つ目の実験では,周辺視野の特性を考慮した実験設計で,単純なタスクを用いて6 種類の視覚刺激を比較した.実験の結果,比較した刺激のうち,数字刺激,境界膨張刺激の タスクパフォーマンスが良くなっていることがわかった.しかしこの実験は,タスクにかか る時間が短いために手法間の差が小さく,タスクの範囲が狭く,日常で行うタスクとは大き く異なるものであった.そのため,日常タスクに適応できる結果を得るために,より日常で 行うタスクに近い形式で,長い時間がかかるものをタスクとして用いて検証する必要があ ると考えた. 次に,1つ目の実験の問題点を踏まえ,より広い範囲を用いる,長時間のタスクを用いた 実験を行った.この実験では,1つ目の実験で結果の良かった,数字刺激と,その派生の刺 激を比較した.その結果,図形刺激においてタスクパフォーマンスが良くなる可能性が示唆 された.しかしこの実験ではタスク設計に問題があり,刺激のみの要素を比較することが難 しく,また実験を非対面で行ったことで実験環境が統制できなかったことによる問題が生 じた.そのため,刺激同士を比較するためには難易度が一定の簡単なタスクを用いて,対面 で行う必要があると考えた. 3つ目の実験では,1つ目の実験と同じ単純なタスクを用いて,対面で実験を行った.実 験を行う間,実験協力者の視線がタスクから逸れていないか検証するための指標として,視 線ログを計測した.刺激は数字刺激,文字刺激と暗転明転刺激の3種類で比較し,視線移動 量が小さいほうがタスクから意識が逸れにくく,集中を継続しやすくなると仮定した.実験 の結果,タスクパフォーマンスが良かった暗転明転刺激は視線移動量が多くなっており,仮 説とは異なる結果となった.一方で,数字刺激と文字刺激は無刺激よりも視線移動量は抑制 されていた. これらの実験の結果,行うタスクの範囲によって効果がある刺激が異なっており,範囲が 狭い場合では数字刺激,広い範囲では暗転明転刺激を用いることでタスクパフォーマンス が向上する可能性が示唆された.また,数字刺激や,文字刺激の提示によって視線の移動を 抑制することができており,用いることで視覚的な妨害に対応することができ,操作を必要 としないタスクであれば集中に効果がある可能性も示唆された.

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Book title

明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(理学)

Date of issue

2022/02/19

Date of presentation

2022/02/12

Citation

桑原 樹蘭. タスク周辺への視覚刺激を用いたPC上タスクに対する集中度向上手法の研究, 明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(理学), 2022.