学位論文

色覚特性を考慮した色変換によるゲームの有利不利制御手法

Abstract

インターネットの普及やCOVID-19の影響により,オンラインゲームの人気が高まっている.オンラインゲームの魅力の一つとして,世界中の多くのプレイヤと遊べることが挙げられる.しかし,プレイヤの中にはハンディキャップを抱えている人がいる.例えばプロとアマチュア,大人と子供などや視力や聴力が弱い人など様々なハンディキャップが挙げられる.特に身体的なハンディキャップを抱えているプレイヤは,純粋な練習量や技量では補うことが困難であり,システムを通して支援を行う必要がある.ハンディキャップには様々な種類が存在するが,本稿では色覚多様性者に着目する. 色覚多様性者は一般色覚者が見える色とは異なる見え方をしており,色の鮮やかさに欠ける.日本では男性の20人に1人,女性の500人に1人が色覚多様性者だと言われており,その数は少なくない.色覚多様性者は色から得られる情報が少なく,一般色覚者と比べて反応速度が遅くなる.特にオンラインゲームにおける反応速度の違いは勝敗に直結するため,色覚多様性者と一般色覚者間で不平等な状況が生じてしまう.そのため,ゲーム制作側は色覚サポートを実装し,フェアな状況に近づけるように対策を行っている.しかし,色覚多様性にも複数のタイプが存在しており,色覚サポートだけでは必ずしもフェアな状況をつくれていないのが現状である.そこで本研究では,「様々な特性がある色覚多様性者がゲームをプレイする際の色によるハンディキャップをなくす」ことを目的とする. まず,色覚多様性者と一般色覚者にとって識別しやすい色やその指標の調査を行った.具体的には,選択肢の中で異なる1色を正確に素早く選択してもらう実験を行い,正答率や選択時間を分析した.しかし,色覚タイプは複数あり,また分析が行えるほど色覚多様性者を集めることが困難である.そこで,一般色覚者が見ている色を色覚多様性者が見ていると思われる色に変換し,一般色覚者を対象に実験を行った.色の選定においては,色覚多様性者は明度の差が大きい色が識別しやすいという先行研究の結果をもとに行った.結果として,彩度と明度の値に差があることや,注目したい色の明度が周りの色の明度と比べて高い場合は両者にとって識別しやすい要因であることが明らかになった. 次に,実験結果で得られた識別しやすい指標をもとに仮説を立て,実際のゲームで有利不利の制御が可能か検証した.具体的にはリアルタイムで色覚多様性者が見ていると思われる色に変換するシステムを用いて,色覚多様性者と一般色覚者を混ぜた環境でゲームを行った.結果として,配色次第で状況を有利にも不利にもすることが可能であることがわかった.また実験協力者が一般色覚者だったため,普段見ることのない色の世界を利用した新たな戦術を試しているポジティブな場面も見られた. 最後に,現状のメジャーなesportsゲームにおいて色の識別困難性がゲームプレイに及ぼす問題について調査を行った.具体的にはリアルタイムで色覚多様性者が見ていると思われる色に変換するシステムを用いて,esportsのジャンルであるパズルゲームの「ぷよぷよ」とFPSゲームの「VALORANT」における色覚サポートの問題を調査した.結果として,T型色覚者は色のハンディキャップがあまりないこと,現状の色覚サポートではフェアな状況をつくり出せていないことがわかった. 本研究では,リアルタイムで色覚多様性者が見ていると思われる色に変換するシステムを提案した.今後は他のゲームジャンルにおける色覚サポートの問題の調査を行い,抽象的なゲームデザインに対して明確化したガイドラインの作成を目指す.また,本システムがより身近に使えるように,PCのスペックに依存しないシステムの開発や本システムを通じて色覚多様性者に関する啓蒙を目指す.

Information

Book title

明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(理学)

Date of presentation

2023/02/12

Citation

藤原 優花. 色覚特性を考慮した色変換によるゲームの有利不利制御手法, 明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(理学).