学位論文

コミックにおける読者依存性の高い地雷の不安軽減に関する研究

Abstract

コミックは日本を代表するポップカルチャーの1つであり,多くの人に楽しまれている.また,電子書籍の登場やSNSなどの新たな発信方法の登場もあり,多種多様なコミックを読むことができる.ここで,虫や炎,高所など人には様々な苦手な意識があり,これらは日常生活だけでなくコミックにおいても存在すると考えられる.このような苦手な描写を目にすると,続きを読むことが難しくなってしまったり読書意欲が下がったりする恐れがある.苦手な描写がコミックの主題となる内容である場合には,ジャンルタグやタイトル,表紙,レビュー文などから読者が事前にその存在を把握し,避けることができると考えられる.一方で,コミックの主題となる範囲ではなく,一部で登場する描写が苦手な場合はそのコミックに苦手な描写が含まれているかを事前に把握することは難しい. そこで本研究では,読者の苦手意識が原因で不快に感じる描写を「読者依存性の高い地雷」と定義し,読者依存性の高い地雷を気にすることなくコミックを鑑賞するための手法を提案する.具体的には,読者がコミックを読む前に地雷の存在を把握することが難しいという点に着目し,読者がコミックを読みながら地雷表現にフラグを付与し,それを用いて他の読者に地雷の存在と位置を予告するというものである.この手法により,読者依存性の高い地雷に遭遇することを事前に把握できるため,目を逸らす,ページをめくる速度を速めるなどの対処が可能となると期待される. まず,地雷フラグの付与は実験協力者間で重複するのか,ブレが生じるのかを確認するため,地雷フラグを1種類,対象となる作品を2作品に限定して地雷フラグの収集を行った.その結果,地雷フラグを付与する際の判断基準が異なるため,一部の実験協力者間でフラグは重複するが,全体的にみるとフラグ付与にブレが生じるということが明らかになった.この実験で得たフラグを用いて地雷箇所の予告を行う実験を実施し,読書体験への影響を調査した.その結果,予告により次のページへ進む際の不安度合が減少する可能性が明らかになった. 次に,対象となる地雷フラグや作品を拡大した場合に地雷フラグは重複するのかを確認するため,商用サービスで地雷フラグの付与が可能なシステムを実装した.このシステムを用いて実験協力者に任意の地雷フラグを付与してもらう実験を実施したところ,比較的少ない人数であっても読む作品や地雷フラグは重複することが示唆された.また,任意の地雷フラグを報告してもらった場合には表記ゆれが生じるという問題も明らかになった. さらに,実際にコミックを読みながら地雷フラグの付与及び予告が行われるシステムを実装し約4週間の運用を通してシステムの利用可能性について検討した.運用を通して実際にフラグ付与や地雷予告が行われることを確認した.さらにアンケートの回答から,予告機能に関する細かなニーズなどのシステムの改善点が明らかになった.

Information

Book title

明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(工学)

Date of presentation

2023/02/12

Citation

伊藤 理紗. コミックにおける読者依存性の高い地雷の不安軽減に関する研究, 明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(工学).