学位論文

Webアンケートにおける回答デバイスと自由記述設問の位置や大きさが回答行動に及ぼす影響

Abstract

Webアンケートには手軽に多くの回答を集めることができるというメリットがある.そのため,数が多く必要となる研究の基礎データの収集などによく用いられる.ここで,Webアンケートは紙媒体でのアンケートと異なり,アンケートの実施状況を確認する人がいないため,回答行動への悪影響が考えられる.例えば,設問を読まずに回答することや,選択設問ですべて同じ位置の回答を選択すること,自由記述設問において適当な文字列を書くといったことが考えられる.このような行動が起こると,不適切な回答を含んだ結果になってしまい正確なデータとはいえない.そのため,不適切な回答を集めないようにする対策が必要である.本研究では特に,自由記述設問に着目をする. 自由記述設問は多様な視点での回答を集めることができるため,意見を集めることが目的のアンケートにおいては重要である.その自由記述設問において,タイピングやキーボード入力で回答をするWebアンケートの方が,文字を書く紙媒体でのアンケートより記入に時間がかからないことなど,多くの利点があることが知られている.しかし,アンケート参加者全員が回答可能な自由記述設問において,「特になし」と回答する人や,「ajksfld」といった不適切な文字列を回答する人など,不真面目に回答する人がみられる問題がある.このような不真面目回答が多く集まってしまうと,正確なデータとは言えないほか,不真面目回答を除去する方法もあるが,分析に使用するデータ数が少なくなってしまうことも考えられる. そこで本研究では,自由記述設問での要素について,自由記述設問のアンケート内での位置,テキストボックスサイズに着目し,これらの要素が自由記述設問の回答にどのような影響を及ぼすのか明らかにする. まず,自由記述設問のアンケート内での位置が回答に及ぼす影響について調査を行った.具体的には「早い段階で自由記述設問へ回答してもらうことにより,不真面目回答者が離脱し,自由記述設問における不真面目回答が減り文字数が増える」という仮説をたて,自由記述設問を最初に回答してもらうグループと最後に回答してもらうグループに分け,実験を行った.その結果,自由記述設問を最初に回答してもらう方が,最後に回答してもらうより自由記述設問での不真面目回答率が低くなることがわかった.一方,文字数については最後に回答してもらう方が最初に回答してもらうより多くなることが明らかになった.また,アンケートに最後まで回答をせず辞めてしまう離脱率についても調査を行ったところ,自由記述設問を最初に回答してもらう方が,最後に回答してもらうより高くなることがわかった. 次に,自由記述設問の位置とアンケートを回答する際の使用デバイスについて調査を行った.アンケートに回答するデバイスは,スマートフォンやタブレット,PCとさまざまなものが存在し,使用デバイスによって回答傾向が異なるのではないかと考えた.実験の結果,不真面目回答率,離脱率について,前述と同様の傾向が見られた.使用デバイスについて,PCでの回答者はスマートフォンでの回答者より不真面目回答率が低くなること,スマートフォンでの回答者はPCでの回答者より離脱率が高くなることがわかった. 最後に,自由記述設問の位置とテキストボックスサイズが回答に及ぼす影響について調査を行い,回答に使用したデバイスでの回答比較も行った.その結果,自由記述設問を最初に回答してもらい,そのテキストボックスサイズが大きい場合に離脱率が最も高くなることが明らかになった.また,2番目に離脱率が高いのは,自由記述設問を最初に回答し,そのテキストボックスサイズが小さいグループであったため,離脱率により影響しているのは自由記述設問の位置であることが考えられる.さらに,使用デバイスごとの離脱率について,前述と同様にスマートフォンでの回答者はPCでの回答者より離脱率が高くなることがわかった. 以上の実験と分析から,Webアンケートにおける回答デバイス,自由記述設問の位置や要素は,回答行動にさまざまな影響を及ぼすことが示唆された.また,Webアンケートにおける自由記述設問において質の良い回答を集めるためには,複数の工夫や考慮が必要であるほか,不真面目回答率を低くしたいか,文字数を増やしたいかなど,どの要因を重要視したいかによってデザインを検討する必要があると考えられる.

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Book title

明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(理学)

Date of presentation

2024/02/12

Citation

山﨑 郁未. Webアンケートにおける回答デバイスと自由記述設問の位置や大きさが回答行動に及ぼす影響, 明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(理学).