学位論文

漫画における登場人物の記憶容易性を考慮したクイズ型記憶支援手法

Abstract

漫画は物語を視覚的に楽しむメディアとして広く親しまれており,その中でもキャラクタの顔や名前を記憶することは物語を理解しながら読み進めていくうえで重要である.しかし,連載漫画では更新間隔の長さや,読者が複数作品を並行して読むことにより,物語の内容や登場キャラクタを忘れてしまいがちである.忘れてしまった内容を思い出すためには漫画の読み直しやインターネットで検索し,情報収集することが必要となる.しかし,漫画の読み直しは読書を中断してしまい,次巻を読みたいのに前巻までの内容を振り返るのが手間となり,その作品から離脱してしまう原因となる.また,インターネットでの検索はその作品のネタバレを受ける可能性が考えられる.これらの問題が起こらないようにするためには,漫画を読み進めている最中に正しく物語を理解し,キャラクタについても正確にかつ長期的に覚えられる状態にすることが理想的である.このような背景から,読書を中断することなくキャラクタの記憶支援が可能なシステムを開発することで,より良い読書体験の提供が期待できる. 本研究では,キャラクタの記憶支援を目的として,クイズを活用した記憶支援手法を提案する.記憶支援手法の確立に際して,まずキャラクタの記憶状態と登場人物の定義を明確にし,キャラクタの記憶度合いに関する調査を実施した.この調査では,漫画の読了時と読了数日後にキャラクタの名前から顔を思い浮かべること(名前→顔)ができるかについて記憶テストを用いて評価を行った.結果として,記憶テストで正確に覚えることができたキャラクタは読了時で47.1\%,3日後で32.9\%であった.また,漫画内要素に基づいてキャラクタの分類を行ったところ,漫画内要素の出現箇所や物語との関連性が覚えやすさに大きく影響を与え,物語と紐づけてキャラクタを覚えることの重要性が示唆された. 次に,得られた調査結果に基づき,読書中にキャラクタに関するクイズを提示する記憶支援手法を設計した.本手法では,読者の認知負荷への影響が小さいクイズの提示タイミングと形式を採用し,そのうえでキャラクタの記憶支援を行う.さらに,本手法をユーザが実際に利用可能なシステムとして実装し,その有用性を検証した.その結果,一部の読者・作品におけるキャラクタの記憶に良い影響を与えることがわかった.また提案手法を,キャラクタが登場していない場面で振り返るためのクイズ回答の他に,登場しているキャラクタを確認しながらクイズに回答するという,記憶定着のためのクイズの回答方法をすることでより記憶度合いを向上させることができることが示唆された.一方で,記憶度合いに差がなかった読者もいるため,提案手法によるクイズ提示方法やクイズの内容についての改善点が明らかになった.

Information

Book title

明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(工学)

Date of presentation

2025/02/12

Citation

櫻井 翼. 漫画における登場人物の記憶容易性を考慮したクイズ型記憶支援手法, 明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(工学).