Abstract
動画やWebサイト,アプリケーション,コミックといったコンテンツを制作する際,文字を適切にデザインすることは重要であり,そのデザインにより効果が変わってくることが知られている.例えば,40代男性向けの化粧品の広告バナーに使用するフォントを,丸文字体やポップ体にした場合,ターゲットやコンテンツ内容とミスマッチであることは明確である.このように,文字デザインは,サービスや商品を開発する際のターゲットはどのユーザ層にするか,どんな訴求軸で売り出すかといったコンセプトとマッチさせることが重要である.しかし,コンセプトにマッチするかどうかをフォント名や文字の形状から判断することが求められるため,文字デザインの出来がユーザの知識量や経験値に左右されるという問題がある.また,和文フォントだけでも2000種類以上存在しており,大量のフォントから適切なフォントを選定する作業は困難であるという問題がある.例としてフォント選択インタフェースを取り上げると,従来のインタフェースはフォント名をある規則性をもった順にリスト形式で並べている.つまり,フォント数を増やして使用する場合,フォントの一覧がスクロール操作を必要とするほど長くなってしまい,他のフォントとの比較が難しくなる.そのため,コンセプトにマッチしそうな候補を1つずつ適用し,フォント間の違いを精査する必要があり,初心者にとってもプロにとっても時間と労力がかかる作業になる.本論文では,従来の文字デザインにおける問題として,ユーザの文字デザインに関する知識量や経験値に依存すること,フォント間の比較が困難であることの2つに着目し,これらを解決する手法について考える.従来の文字デザインにおける問題を解決するためには,ユーザの文字デザインに関する知識量や経験値に依存せず,フォント間の比較が行いやすいインタフェースの設計が求められる.また,意図に応じた文字デザインを行うには,導入しているフォントだけでなく,新たにフォントを生成できる必要がある.そこで,印象語による検索と二次元平面インタフェースに着目する.まず,印象語による検索は,ひとが脳内で思い描くコンテンツの印象を入力することで候補を得る手段のことで,キーワードでの検索が困難なフォントの探索に有効な手段であると考えられる.次に,二次元平面インタフェースは,多くのデザインソフトで採用されている色のスペクトラムに代表されているように,大量の候補を容易に比較することができる.実際に,大量のフォントを二次元平面上に可視化する試みがいくつかなされているが,フォントの形状が近いもの同士が近くに配置されるという方法を採用している.そのため,フォントの形状からコンテンツの印象に合うかどうかをユーザが判断する必要があり,文字デザインに関する知識量や経験値に依存しないというインタフェース設計の条件を満たしていない.また,所有するフォントの種類次第では,配置結果に偏りが生じてしまい,二次元平面インターフェースの利点であるシームレスな比較ができないケースが発生する可能性がある.そこで本論文では,従来のフォント選択インタフェースにおける問題を解決するために,印象語入力と二次元平面上にフォントを配置し,シームレスな探索を可能としたインタフェースを提案した.また,フォントを数式化し融合可能にする手法を実現し,フォントに関する印象語および印象値のデータセット構築を行うことで,提案インタフェースを実現した.さらに,主観的,客観的それぞれの側面から実験を行い,提案インタフェースの有用性を検証した.まず,提案インタフェースを用いたデザインシステムを実装し,比較実験による評価を行った.その結果,従来のリスト形式からフォントを選ぶ方法や,印象軸を元にフォントを配置しフォントを選択する方法よりも,獲得したフォントに対する満足度において提案手法が有用であることを確認した.また,新たなフォントをリアルタイムに生成することで,写真の雰囲気にマッチするようなフォントを獲得でき,ユーザのフォント獲得に対する満足度が高くなることが示唆された.さらに,デザイン知識の少ないユーザとデザイン知識をある程度もっているユーザとで,それぞれ異なるシステムの使い方をしていたが,どちらのユーザも満足度の高いフォントを獲得できることが明らかになった.次に,フォントに関する印象評価データセットを用いて,数式化フォントおよび融合フォントの有用性を検証した.その結果,数式化フォントはベクタフォントと同様の印象をもち,それを任意の割合で融合したフォントは,同様の割合で融合した印象はもたないものの,融合対象のフォントがもつ印象値の範囲内の印象をもつことが明らかになった.また,数式化フォントを融合すると,魅力度や近代性が必要以上に低下することを確認した.特に,角張ったフォントや太さの変化が激しいフォントなど,数式による表現が難しいフォントがこれら2つの印象を著しく低下させることが示唆された.以上の2つの実験結果から,二次元平面インタフェースの妥当性を議論した.本分析において,任意の割合で融合したフォントは同様の割合で融合した印象をもたないものの,融合対象のフォントが取り得る印象値の範囲内の印象をもつという結果が得られたことから,動的に微調整が可能な提案インタフェースは妥当であると結論づけた.また,これまでフォントを融合する際,ユーザが選択した位置に近接するフォントを4つ選定してきた.しかし,フォントによって特定の印象を必要以上に低下させる傾向があることから,ユーザが選択し二次元平面の軸としている印象を必要以上に低下させる効果をもつフォントは,たとえ近接していても融合対象に含めないなど,融合する組み合わせの選定方法に工夫が必要であることが示唆された.