学位論文
Admin

イラストの部分遮蔽による作画ミス見落とし防止の研究

Abstract

 イラスト制作,およびその投稿における問題に「作画ミスの見落とし」がある.具体的には,作画中や,作画直後の作品投稿時には自身のイラスト内の違和感や不満点に気付けず,後日になってはじめて発見できるようになる,といった状況のことである.本研究における「作画ミス」とは,作者の意図しない作画がイラスト内に残ってしまうことを指す.ここで,実在する作画対象との比較から描画精度を定義可能な模写とは異なり,想像から描かれるイラストに関しては,イラスト制作者自身しか答えをもたないため,自身で作画ミスを発見するしかない.そのため本研究は,作画直後にイラスト制作者自身が作画ミスを見つけ修正することを促す手法を提案し,満足なオリジナルイラスト制作の支援を目的とする.  作画ミス見落としの現状を把握するため,自身のオリジナルイラストをWebに投稿した経験のあるイラスト制作者を対象とした大規模なアンケート調査と,美術系の大学に通うイラスト制作上級者4名を対象とした予備実験を行った.調査の結果,作画ミスの見落としは初心者や上級者にかかわらず生じる問題であり,作画ミス見落としを防ぐために普段何らかの工夫を行っている注意深いイラスト制作者であっても,約58%が日常的に作画ミス見落としを経験している現状が明らかになった.また,解剖学的な誤りや構造的な違和感を意味する「デッサン狂い」と,違和感の原因にはならないが作者の意図した表現が達成されていない「表現のミス」が特に見落とされやすく,それぞれイラスト全体を俯瞰して気付けるようになる全体的なミスと,細部におけるミスに分類可能であることがわかった.作画ミス見落とし防止の既存手法としては「左右反転」「縮尺変更」などが主に普及しているものの,作画ミスの網羅的な発見は達成されていないことが示唆された.また,作画ミス見落としの原因としては,長時間の作画による認知の慣れを問題視する回答が多く,この慣れを構成する感覚としては,イラストの一部分にのみ着目してしまい全体を俯瞰できなくなる現象や,作画対象物に関する自身の記憶や知識を参照した結果,イラストを記号的に描いてしまう認知バイアスなどが存在することが明らかになった.この認知バイアスは写実的な模写において議論されてきた事象だが,本研究が対象とする想像から描くイラストは,イラストにおける多くの要素がイラスト制作者の知識や記憶によって構成されるため,模写以上に認知バイアスの影響を受けやすいと推測できる.  以上の背景から,あえてイラストの一部分を遮蔽することで,イラスト制作者自身での作画直後の作画ミス発見を促すイラストの部分遮蔽手法を提案した.本手法はイラスト制作工程における線画の作成が完了した後に,既存手法と併用することを想定したものである.本手法の仮説として,提示する視覚情報の制限によって,線をまとまりとして認識できなくすることで認知バイアスの低減が可能だと考えた.そのうえで,遮蔽された範囲内のバランスの想像を促すと同時に,非遮蔽範囲における細部のミスにも着目可能になると想定している.実験によって本手法の有用性を調査した結果,手法適用によって実際に感覚の変化が生じ,「遮蔽範囲内を想像することで発見できるようになる作画ミス」と「遮蔽範囲の内容にかかわらず,意識する箇所の移動によって発見できるようになる作画ミス」の見落とし防止に有効であることがわかった.このとき,遮蔽の境界線によって分断されたパーツに関するバランスのミスや,そのパーツ内の細部のミスの発見が特に多く見られた.分析の結果,特定のパーツ内部を分断し,イラスト制作者が特に意識している箇所とその周囲を分離するような遮蔽パターンの提示が,より効果的である可能性が明らかになった.  次に,入力された線画内の閉領域をイラスト中のオブジェクトのパーツとして認識したうえで,パーツ内部を分断する遮蔽パターンを生成する自動遮蔽システムを実装した.本システムのアルゴリズムとしては,4近傍ラベリング処理によって閉領域を検出し,ランダムで選定された閉領域を囲う矩形の斜め方向の頂点同士を通る斜線を境界線とした遮蔽を生成する.本システムの使用実験の結果,実験参加者全員が満足な作画ミスの修正が可能であったことや,作画タスク中の既存手法の適用では認識できなかった作画ミスの発見が達成されたことなどから,本システムが作画ミス見落とし防止に有効であることを明らかにした.一方で,構造的な誤りではない,絵柄や表現に関する作画ミスの発見にはいたらなかったことが明らかになった.今後は,モルフォロジー演算やスプライン補間などから,途切れている線分の隙間を埋める手順をアルゴリズムに取り入れることで,より多くのイラストに対応可能だと考える.また,視覚的に類似した遮蔽パターンが連続で提示されないシステム設計に改善したうえで,既存のペイントツールの拡張機能としての実装が求められている.

Artifacts

Information

Book title

明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(理学)

Date of issue

2021/02/12

Date of presentation

2021/02/12

Location

オンライン

Citation

髙橋 拓. イラストの部分遮蔽による作画ミス見落とし防止の研究, 明治大学大学院 先端数理科学研究科 修士(理学), 2021.